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基本情報

BASIC INFORMATION

中国現地法人組織再編及び撤退のポイント

1.中国ビジネスの現在地と方向性の確認

中国に現地拠点を設け中国ビジネスを展開している会社において、中国のビジネス環境の変化に伴い、当初設立した現地拠点の見直しを行う会社が増えています。
中国は世界最大級の魅力的な市場であることは間違いありませんが、年々企業運営コストが上昇しており、ビジネス環境も厳しくなってきています。
このため、中国拠点のビジネスの見直しにあたっては、現地拠点の現状と外部環境(需要や規制等)を適切に把握し、グループ全体の将来計画において中国拠点が果たす役割とリスクを分析の上、進むべき方向性を確認する必要があります。

2.中国拠点の再編及び撤去手法

中国ビジネスの現在地と方向性を確認し、中国現地でのビジネス継続と判断した場合、現状及び将来性を踏まえ、中国拠点をどのように継続していくか検討します。
また、中国でのビジネス継続が困難と判断した場合、事業縮小方法と撤退手法について検討をします。

判断 手法
現状のまま維持 必要に応じ社内改善に取り組む
新規事業拡大 経営範囲変更手続き、許認可取得、資金調達
ビジネスエリア変更 移転、支店設置、新設+閉鎖
複数拠点統一 合併、存続拠点に事業譲渡(集約)+清算
事業分割 会社分割、他のグループ会社に事業譲渡
規模縮小 減資、事業譲渡、一部事業停止
休眠 休眠届(2022年3月からの制度、3年を限度)
撤退 会社清算、持分譲渡、事業譲渡+清算

現地拠点の組織を大きく変更する場合には、法務及び行政手続きのほか、税務面や労務面でも大きな影響を与えるため、慎重に検討し綿密な計画のもと進めていく必要があります。

3.ビジネスエリアの変更

環境変化等により中国現地拠点を移転しようとした場合、従業員の雇用や各種行政手続きの煩雑さから、現所在地から遠方への本店所在地の変更は実務上容易ではありません。
このため、実務上以下の方法により実質的な移転が可能となります。

  1. 別の地域に分公司(支店)を設置→本店は最低限の管理部隊を残し、事業の本部機能及び実動部門を分公司に移転
  2. 別地域に新たに法人設立→元の会社の所在地に新設法人の分公司を設立→新設法人に事業譲渡→元の会社は任意清算

4.複数拠点の統一

中国国内に複数ある拠点を統一する手法として、複数の法人を一つの法人に包括移転する合併が制度上可能ですが、省(市)を跨る法人の合併は住所変更同様に実務上容易ではありません。

このため、以下の方法で複数拠点の統一をすることができます。

  1. 同一省(市)内の複数拠点の場合には合併
  2. 一方の現地法人を存続法人とし、他方の現地法人の事業を存続法人に事業譲渡(業務移管)し、事業譲渡(業務移管)完了後、他方の現地法人は任意清算

5.事業分割

中国国内の1 の拠点の事業を分割する手法として、会社分割がありますが、こちらも複数拠点の統一と同様に遠隔地への会社分割が容易ではないため、実務上は以下の方法で実質的な分割を行うことができます。

  1. 他のグループ会社に一部の事業を譲渡(業務移管)
  2. 新たに会社を新設し、新設会社に一部の事業を譲渡(業務移管)

6.規模縮小

現地法人の規模を縮小し継続する場合、事業と組織を縮小化し、縮小化したのちの運営資金に比して手持資金が過大となる場合には、有償減資(資本金の払い戻し)をすることもできます。
事業の縮小に当たっては、中国国内のグループ会社への事業譲渡(業務移管)を行い、組織の縮小化は計画的なリストラを行います。なお、従業員のリストラに当たっては労働法規に従い対応し、適切な経済補償金の支払いを要します。

7.休眠

従前、中国では法制度上休眠は規定されていませんでしたが、2021年7月に公布された中華人民共和国市場主体登記管理条例により、休眠が初めて法制度化され、2022年3月1日から実施されることとなりました。

当該新制度で認められる休眠は以下の要件を満たすこととされています。

  1. 自然災害、事故災害、公共衛生事件、社会安全事件等の原因で経営が困難となった場合であること。(休業前に届出が必要)
  2. 休眠前に従業員と法に基づき労働関係を協議すること。
  3. 休眠期間は3年を超えないこと。

労働関係の取扱いについて実務上どのように協議合意すればよいか不透明な部分もありますので、今後追加で関連補充通知が交付されることが期待されます。

なお、従来は実質営業活動を行わず、定期的な税務申告や関係諸機関への毎年の年度報告を行うことで、実務上は休眠状態で維持することも可能ですが、帳簿記帳、定期的な税務申告、毎年の年度監査、年度報告及び本店所在地住所賃料など最低限の維持コストが必要となります。

8.撤退

中国ビジネスの継続が困難と判断し、撤退を検討する場合、会社の現状に応じ計画的に対応していくことが重要となります。

会社の状況 状況に応じた対応
現況ビジネスはまだ収益力がある
会社保有資産に価値がある場合
持分譲渡による撤退を目指す
持分譲渡が成立しない場合、会社清算を計画
中国国内にグループ会社がある場合 現況ビジネスは中国国内グループ会社に事業譲渡(業務移管)したのちに会社清算
中国国内にグループ会社がない場合 計画的に取引の縮小と人員を削減したのちに会社清算
撤退手法の特徴
持分譲渡 解散・清算(任意清算)
〇 会社を存続させたまま承継できる
〇 清算に比し行政手続きが簡易
〇 清算に比しトータルのコストが抑えられる
〇 清算に比し撤退完了までの時間が短い
× 会社に価値がないと買手が付かない
× 交渉事なので取引が成立するとも限らない
× 譲渡契約において一定期間の表明保証が付されることが多い
× 出資引き上げ時に
△ M&A コスト(仲介料、アドバイザリー料)が必要な場合もあり
〇 会社の意思で自主的に進めることができる
〇 持分譲渡に比し発生するコストを確定させることができる
× 潜在的なリスクが表面化しコスト増となる可能性がある。
× 従業員解雇による経済補償金の支払い
× 会社清算準備から清算結了まで長期間を要する
△ 清算手続き時の労務対応・行政手続き対応等にかかるコスト(弁護士報酬やコンサル料)が必要な場合もあり
(1) 持分譲渡
  1. 持分譲渡による撤退の可能性について 持分譲渡は、清算に比べ事務負担及びコストを少なくかつ短時間で行える撤退手法です。
    • 中国現地法人は安定した利益を稼得している
    • 中国現地法人が保有する資産(棚卸資産、機械設備、土地建物など)に価値がある
    • 中国現地法人に有望な販売網(顧客)を持っている
    • 中国現地法人と密接かつ友好的な協力会社がいる。
    等の状況にある場合には、買手が付く可能性がありますので、まずは持分譲渡による撤退を検討した方が良いでしょう。
  2. 持分譲渡による撤退を検討する際の留意点実際のところ、第三者への持分譲渡の成立には、相手を探し、双方条件に合意する必要があることから、それほど容易にできるものではありません。
    また、持分譲渡による撤退を進めていくとしても、首尾よく相手が見つかり、買収側のデューデリジェンスを受け、条件交渉の上譲渡契約を締結し、対価決済、持分譲渡益に係る税金納税、持分譲渡手続き完了まで順調に進んでも半年近く時間を要します。
    このため、持分譲渡による撤退を進めるにあたり、上記1の可能性の検証のほか、持分譲渡手続き完了までの中国現地法人の事業継続性、資金繰り、企業価値評価上のポイント、出資者変更時における労働紛争の可能性、取引先への影響などを検証し、売却先企業の条件や、持分譲渡による撤退プランの実行期限などの検討を要します。
  3. 持分譲渡手続きの留意点持分譲渡における中国側の行政手続きは、出資者変更にともなう定款変更、営業許可証の変更をはじめとした各種行政登記変更、銀行口座登録情報変更などを行うことになります。
    出資者としての権利義務の移転を対外的に明確にするためにも、営業許可証の登記情報の変更完了までは、元の出資者側でもこれらの手続きに主体的に関与された方がよいでしょう。
    また、上記行政手続き以外に、従来日本親会社から中国現地法人との間で貨物の輸出入取引、技術支援、特許権や商標権の使用許諾を行っていた場合には、持分譲渡後にこれらの契約変更を要する場合にはこれらの変更手続きも忘れずに行う必要があります。
  4. 持分譲渡益課税中国現地法人の出資持分を有する日本企業が、持分譲渡により持分譲渡益が生じる場合には、10%の企業所得税が課されます。
    当該企業所得税は持分譲渡者(日本企業)に対して課されるものであり、当該持分譲渡益課税に関する申告は原則として自己申告・自主納税となりますが、日本企業独自で中国税務局への申告納税をすることは実務上難しいため、現地法人又は外部コンサルへ委託することになります。
    申告納税に当たり、納税資金をどのように送金するかが実務上問題となりますが、中国現地法人が立替納税後、日本企業から中国現地法人へ送金する方法と、現地税務局の納税口座に日本企業から直接送金する方法があります。なお、前者は中国現地法人及び中国現地法人の取引銀行の理解と協力が不可欠であり、後者は現地税務局の理解と協力が不可欠となります。
    なお、中国現地法人に多額の未処分利益がある場合、持分譲渡前に利益処分により配当金で投資資金を回収することで日本側の税負担を軽減することができる可能性もありますが、令和2年の税制改正にて子会社株式簿価減額特例が創設されていますので(一定の要件に該当する子会社からの配当金相当を子会社株式簿価を減額)、持分譲渡行う前に現地法人の資金繰り及び日本側での税務上の取り扱いを確認の上、利益配当による投資資金の回収について検討をされたほうが良いでしょう。
(2) 会社清算

持分譲渡による撤退の可能性がない場合には、解散により会社清算を行うことになります。
中国の制度上破産や特別清算もありますが、裁判所等の関与を受けることから、一般的に日系企業の多くは任意清算により会社清算を行います。

  1. 会社清算のプランニング解散による会社清算に当たり、綿密なプランニングのもと時間をかけた対応がポイントとなります。
    会社清算の手続き上、大きな山は2 点あり、一つは労務、もう一つは税務です。
    労務は会社清算による整理解雇を滞りなく進めることができるか、税務は過年度申告の調査対応と日本親会社側の税務取扱いも考慮した清算処理となります。
    このため、会社清算に伴う労務リスクと税務リスクをあらかじめ把握し、これらリスクとコストを最小化する清算プランを策定し、清算コストを見積り現地法人の資金繰りも併せて検討します。
    なお、会社清算は従業員に与える心理的インパクトが大きいため、プランニングは日本親会社も現地法人も少人数の幹部社員が水面下で進めていくことになります。
  2. 会社清算準備撤退の判断を行ったのち、プランニングした清算計画に基づき、従業員雇用調整、生産営業調整及び資金繰り調整など進めていきますが、会社や取引先との状況により当該調整は数か月から年単位となる場合もあります。 また、会社清算申請前に是正すべき行政手続き等がある場合には、これらの手続きについても事前準備(手続き方法と必要書類を確認の上、申請書類及び付随提出書類の事前準備など)を進めておきます。
    なお、会社清算手続きを開始する前に、現地法人総経理を中心に信頼できる幹部社員と総務財務メンバー数人で清算実務チームを事前に組成し、または清算手続き開始と同時にチームを組成できるようにしておきます。
  3. 会社清算手続き会社が社内及び対外的にも会社の解散及び清算を表明した後、本格的な会社清算手続きを進めていくことになります。
    労務対応、過去の行政手続きの是正対応、会社清算行政手続き対応、税務対応、資産処分・債権回収対応、債務返済対応、取引先対応等、初動期は現地法人の清算実務チームに相当な負荷がかかります。
    労務対応、資産処分・債権回収対応、債務返済対応、取引対応の目途が立つと、あとは税務対応と会社清算の行政手続き対応がメインとなるため、この段階で清算実務チームを縮小し、最低限の人数(総経理+総務財務スタッフなど)で残務処理に当たり、外部コンサルなどに手続きを委託している場合には現地常駐者を置かず、遠隔で対応している場合も少なくありません。
    ここ数年で会社清算の行政手続きは一部簡素化されているところもありますが、全体的にはまだ煩雑であり、一般的にはすべて完了するまで半年程度の時間を要しています。
  4. 会社清算時の税務上の留意点 従来、会社清算手続きにおいて、税務登記抹消申請に当たり税務局の帳簿検査(調査)が行われるのが一般的でしたが、ここ最近、税務当局のデーターベース上で現地法人の過去の申告や各種税務手続きについて問題のないと判断された会社は、簡易抹消が認められるケースが増えてきています。
    一方で、税務当局担当者が会社清算に当たり何かしら追加納税を主張してくるケースもあることから、事前に税務リスクを把握し、税務局担当者からの指摘に合理的に説明および対応できるようにしておくことが肝要です。
    会社清算時に過去事例で指摘された事項または自主修正した事項
    • 外国籍人の個人所得税(計算間違い、日本払給与金額間違い、現物給与加算漏れ等)
    • 過年度企業所得税及び増値税申告誤り(過年度会計処理誤りに伴う修正)
    • 印紙税納税漏れ
    等の状況にある場合には、買手が付く可能性がありますので、まずは持分譲渡による撤退を検討してみましょう。

中国撤退に関するプランニングから、中国現地での各種手続きに関してご相談のある方は遠慮なくお問い合わせください。

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