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中堅中小企業を管轄する税務署の法人税税務調査において、国際税務が論点となる指摘事項が増えてきています。
一般的な中堅中小企業の経理・財務業務は最小限の人員で運営しているケースが多く、国際税務まで対応しきれず、長期間税務リスクが放置され、税務調査時にリスクが顕在化することも珍しくありません。
予期せぬ課税漏れの指摘を受けないためにも、日頃より海外取引先や国外関連会社との取引の実態を正確に把握・整理し、適切な税務処理を確認しながら対応することが重要となります。
ここでは、一般的な中堅中小企業の税務調査において着目されがちな国外関連取引を中心に、国際税務の留意点をご紹介いたします。
税務行政の現場では効果的・効率的な税務調査が求められており、「経済社会の国際化」への対応が近年の重点事項のひとつとして挙げられています。
このため、海外取引が活発な会社や国外に関連会社を有する会社は調査選定されやすい会社の一つと考えられます。
会社自らこれまでに提出した法人税の税務申告書、決算書、勘定科目内訳書、法人概況書などから、海外取引や国外関連会社の基礎情報を収集分析がされるものと思われます。
特に国際税務にかかわる情報が記載されている申告書別表は、
が挙げられ、これらの別表から国外関連者の情報、国外取引の形態や金額などの基本情報を把握することができます。また、決算書・勘定科目内訳書・事業概況書などからも複数年の推移から異常点を抽出することができます。
その他にも、税務当局側は、100万円超の国外からの送金・国外への送金は国外送金調書により情報収集をすることができ、税関データや会社のホームページ等の公開情報からも情報収集をすることができます。
海外企業との取引や海外関係会社との取引が生じた場合、以下のように幅広い税目にわたり留意を要します。
取引内容 | 税目 | 主な留意事項 |
---|---|---|
海外企業等との輸出入取引、役務提供 取引が生じた場合 | 法人税 | ・売上・仕入計上時期 ・輸入時付帯費用の処理 ・外貨建取引換算方法 ・外国税額控除 |
消費税 | ・国内国外取引の判定 ・輸出免税取引の要件充足 ・輸入取引にかかる消費税 ・リバースチャージ課税 |
|
所得税 | ・非居住者源泉税 | |
海外企業等と無形資産の使用許諾取 引が生じた場合 | 法人税 | ・外国税額控除(みなし税額控除) |
源泉税 | ・非居住者源泉税 | |
海外企業等との契約書を作成した場合 | 印紙税 | ・取引契約書にかかる印紙税 |
国外関連会社(※1)との取引 | 法人税 | ・移転価格税制 ・寄付金課税(簡易な移転価格) ・受取配当金益金不算入 ・海外関係会社出向者にかかる源泉税 ・過小資本税制・過大利子損金不算入制度 |
軽課税国に外国子会社を有する場合 | 法人税 | ・外国子会社合算課税 |
1法人と親子関係、兄弟姉妹関係又は実質支配関係にある国外の法人
中堅中小企業の一般的な税務調査では、上記(1)のうち国外関連者との取引が着目される傾向にあり、具体的には以下の事項については適切に説明できるようにしておく必要があります。
項目 |
---|
国外関連者含むグループ全体の経済活動の流れと各社の役割 |
国外関連会社の損益状況と調査対象会社との間における取引内容と金額 |
国外関連会社の運営体制と国外関連者への支援状況 ・出向社員の勤怠状況と現地給与情報 ・国外関連者への出張者の出張内容等 ・国外関連者への各種役務サービス取引の有無とその内容・金額 ・国外関連者への無形資産使用許諾取引の有無とその内容・金額 ・国外関連者への資金貸付取引の有無とその内容・金額 ・その他国外関連者に関する費用を負担している場合のその内容・金額 |
国外関連取引に関し、適切な対価を回収しているか否かがポイントとなりますが、適切な対価を 回収していない場合、税務当局より、移転価格税制による対価の妥当性または国外関連者への寄附金の該当性について疑義を持たれる可能性があります。
移転価格税制による対価の妥当性については、国外関連者との取引価格と取引形態が類似する非国外関連者(第3社)との取引価格(独立企業間価格)を比較し、その妥当性を検証し、国外関連者側に利益移転していると認められるときは、国外関連者との取引価格を独立企業間価格に調整し課税更正がされます。
考え方はシンプルですが、独立企業間価格と比較して適切か否かを判断するには様々な観点からの検証と実際の数値に基づく比較が必要となり、言葉でいうほど簡単なものではありません。
一方、国外関連者への寄附金の該当性については、国外関連者に対する経済的利益の供与があると認定された場合、国外関連者に対する寄附金は全額損金不算入とされます。これは対価性のない取引であることから上記の国外関連者との取引価格を是正する移転価格による更正とは分けて整理されていますが、実務的には簡易な移転価格更正と言えます。
一般的な法人調査では、国外関連者に対する経済的利益の供与があると疑われる取引については、当該寄附金認定課税が主張される傾向にあるようです。
等はチェックされる項目として認識しておいた方がよいでしょう。
これらの事項について、関連会社との他の取引と関連することから個別に見た場合には無償の取引であるものの、取引価格全体としてみた場合には他の有償取引を含め対価回収がされている場合には、移転価格の問題として検討することが合理的な場合があります。
海外企業や国外関連者との取引について、実際の対応は営業部・購買部・製造部・総務部などの各部署が対応している場合でも、取引実行前に経理部門と情報を共有し、税務の観点から問題となる取引形態や取引契約内容となってないか事前に確認できるようにしておくことが望ましいといえます。
事前に情報共有することにより、上記2に掲げる国際税務上の留意事項を踏まえた取引スキームの組み立てや契約書の作成を行うこと期待できます。
また、第三者との取引においても、国外内で生じる税コストを適切に見積もり、営業部門や購買部門に対し税コストも踏まえた取引金額の見積及び交渉を促すことができます。
海外企業や国外関連者との取引について、相手先情報・取引内容・時期・金額・取引決定プロセス・金額算定根拠・契約書・取引履歴・関与者情報を整理し、取引先相手が国外関連者である場合には、上記2(2)のポイントに照らし、論点となる事項を洗い出し、説明資料を整備しておくことが肝要です。
また、会社全体の取引金額に比し、国外関連者との取引金額が大きく、かつ、国外関連者の損益状況が良好な場合には、移転価格の課税リスクを検証し、移転価格同期文書またはそれに準じる程度の説明資料を準備しておいた方が良いでしょう。
なお、国税庁より移転価格上の税務コンプライアンスの維持・向上や税務リスクの軽減に向けた取り組みに資するものとして、「移転価格に関する取組状況確認のためのチェックシート」が公表されています。そのほかにも、納税者の移転価格税制に関する予測可能性や行政の透明性を向上させるため、「移転価格ガイドブック~自発的な税務コンプライアンスの維持・向上に向けて~」が公表されています。
チェックシートは、①移転価格税制についての認識、②トップマネジメントの関与、③国外関連取引の実態・問題点の把握、④グローバルな移転価格ポリシーの策定、⑤移転価格算定手法を念頭に置いた取引価格設定、⑥海外の関連法人における移転価格対応(親会社のガバナンス)、⑦税務当局とのコミュニケーションの7つの視点から計31個のチェック項目により会社としての取り組み状況を整理するシートとなっています。
ガイドブックは、課税当局が税務行政を執行するうえで準拠する移転価格事務運営指針や参考事例集などから、納税者の自主的な検討、対応等に有用となる情報として公表されたものであり、①移転価格に関する国税庁の取り組み、②移転価格税制適用におけるポイント、③同時文書化対応ガイドが記載されています。特に②の移転価格税制適用におけるポイントは、具体的な設例を用いて、税務当局と納税者の視点を示しつつ、納税者向けのアドバイス等が記載されており、移転価格の分析にあたり参考になるものとなっています。
これまで述べてきた通り、海外企業や国外関連者との取引がある場合には、税務当局より着目され、税務調査の際には重点調査項目となりやすく、事前の情報整理や検討がなされていない場合、適切な説明や抗弁ができず、修正申告を行わなければならないケースも少なくありません。
このため、経理部門のみならず、他部門の関係者は国際取引が生じる場合には常に税リスクとコストを意識し、適時関係者間で情報共有を行い、事前に課税リスクやコストを見積もったうえで取引の交渉と実行の判断材料としていただくことが望ましいと言えます。
また、国外関連者間取引の場合、関連会社支援をどのようにどの程度行うかは、何を優先するか(関連会社の支援か税リスク・コストか)の経営判断となりますので、適時適切な税リスク・コスト情報を経営者と共有し、適切な経営判断を下せるようにしておくことが肝要と言えます。
以上
(担当:安達)
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